ご予約のキャンセル料を要求した折に、「予約時にキャンセル料について聞いていないから払う必要がない」ということを言われる方がおられます。
というか、お伝えしていないとほぼ100%、判で押したように皆さん同じことをおっしゃいます(笑)
一つ、覚えておいてください。
「予約時にキャンセル料の有無を聞いているかいないかに関わらず、キャンセル料を払う義務がある」
これが正解です。
飲食店の予約は、法律上(民法上)の契約(民法第555条に定める「売買の契約」)です。
「契約」というと仰々しく聞こえますが、文書にしていなくても、お互いの合意があれば契約は成立する、ということはご存知でしょうか。
法的な話をすれば、居酒屋で「生一つちょうだい!」「かしこまりました!」も売買契約です。
その時点で契約は成立しているので、「やっぱり生ビールやめてレモンサワーにするわ」「早く帰って来いって言われたから飲むの止めておくわ」と言っても、一方的にキャンセルすることは出来ません。
この場合、例え出された生ビールをお飲みにならなくても、それの代金を支払う義務がお客様に生じます。
いったん成立(合意)した契約を一方的に破棄された場合、された側には「債務不履行による損害賠償請求権」が発生します。
要するに、一方的に約束を破られたことによって生じた損害(損失)を破った側に請求することが出来るのです。
飲食店のキャンセルの場合、発生する損害は「販売機会の損失による逸失利益」「その予約のために仕入れた食材の原価」「その予約のために手配したアルバイトの人件費」などが考えられます。
その金額がどの程度が妥当であるか?
それについて、双方が妥協、合意出来ない場合は民事訴訟により判決で決めてもらうしかありません。
例えば宴会予約で、飲み放題つきコース5800円を10人で予約したが、予定が変わり2日前にキャンセルの連絡を入れた場合に予定される売上総額の58000円をキャンセル料として請求するのは法的には可能ではありますが、判決で満額認められることは無いと思われます。
このような訴訟の場合、キャンセルによって生じた損害から、店が取り戻せた金額(損失を免れた金額)を差し引いた額が賠償すべき額として算定されます。
例えば、前日のキャンセルであったのでほぼ同じ人数の金額・人数の予約が取れたのであれば、損失はほとんど発生しません。
仕入れた食材も、他のお客様に提供出来ればロスを出さずにすみます。
ただ、これを決めるためには民事訴訟によってお互いが証拠を提出し、判決を出してもらわなければなりません。
それはどちらも得をしない(10名さま程度のキャンセルに対し、民事訴訟を起こしても実質的に利益を得ることは難しいと思われます)ので、あらかじめそういう場合のキャンセル料を定めておくことが出来るのです。
民法第420条1.当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
と定められています。例え裁判で争いになっても、予めキャンセル料が定められていたら、その金額を判決によって変えることは出来ません。
ただし平成13年に施行された消費者契約法9条1号により、平均的損害を超える額のキャンセル料に関しては無効であると定められました。
懲罰的な高額キャンセル料によるぼったくりを防ぐための法律であり、例えば予約した飲み放題を含むコース料理の金額や、平均的な客単価を超えるようなキャンセル料は契約書があっても無効となります。
ただし、平均的損害の額に関しては、消費者の側に立証責任があるとされており、例えば当日のキャンセルに対して予定売上の半額程度のキャンセル料であれば減額判決が出ることは難しいように思われます。
キャンセル料の定めの無い場合、争いになればキャンセル料程度の金額で済まなくなることもある、ということを覚えておいていただきたいと思います。
予約時にキャンセル料について聞いていないから払う必要がない、というのは無銭飲食するのと同じことです。
この美人弁護士さんの説明がとてもわかりやすいので貼っておきますね。
弁護士 正木裕美のまっさき通信|弁護士法人アディーレ法律事務所